
代表インタビュー
中小企業に迫る「選別の時代」
コロナ延命の反動とインフレ三重苦
CRC真部代表に聞く企業再生の現場
BISINESS INFORMATION BANK誌(データ・マックス刊)2026年3月インタビューより
代表理事 真部敏巳
中小企業を取り巻く経営環境が急速に厳しさを増している。コロナ禍で実施された実質無利子・無担保融資(いわゆるゼロゼロ融資)の返済が2024年から本格化し、同時に材料費・賃金・光熱費の高騰というインフレ局面が企業収益を圧迫している。金融機関の姿勢もコロナ期の支援モードから一転し、業績回復の見通しが立たない企業に対しては新規融資を抑制する動きが強まっている。
企業再生支援の現場では、いま何が起きているのか。長年にわたり中小企業再生の実務に携わってきたCRC企業再建・承継コンサルタント協同組合・代表理事の真部敏巳氏に、現在の経済環境と中小企業の実態、そして経営者が取るべき対応について聞いた(聞き手:データ・マックス 代表取締役社長 緒方克美)。
■ 「とにかく延命」が生んだ副作用――リスケ至上主義のツケ
緒方:
現在の中小企業の状況を理解するには、リーマンショック以降の金融政策の流れを振り返る必要があると思います。現在の中小企業の経営環境を、どのように見ていますか。
真部:
基本的な流れは、おっしゃる通りだと思います。今の状況を理解するには、まずリーマンショック後から見ていく必要があります。
2008年の金融危機の後、日本ではいわゆる「リスケ第一」の時代がありました。資金繰りが厳しい企業については、とにかく金融機関が返済条件を緩和して支えようという政策が続いたわけです。つまり「厳しい企業はとにかくリスケ(返済猶予)で支えよう」という流れです。
その結果、多くの企業が潰れずに済みました。しかし一方で、経営の問題を根本的に解決するというよりは、とにかく延命させるという政策でもあったのです。
緒方:
金融機関は資金繰りが厳しい企業に対して返済条件の緩和を広く認め、多くの企業が倒産を回避しました。一方で、経営体質の改善は先送りされた面もあります。
真部:
それが2010年代の後半になると、さすがに「そろそろ正常化しなければいけない」という流れが出てきました。金融機関も、本当に再生できる企業とそうでない企業を見極めていこうという姿勢になってきたのです。
その頃から、いい会社と悪い会社の差がはっきり出始めていました。いわば市場による選別が、ようやく始まろうとしていた段階だったと思います。
■ 「とにかく潰さない」の代償――大量のゾンビ企業はいかに生まれたか
緒方:
その流れがコロナで大きく変わったということですね。
真部:
そうなんです。いよいよ企業を選別していかなきゃいけない、というタイミングでコロナ禍に見舞われました。そうなると政策は完全に変わります。
もう良い企業も悪い企業も関係ない。「とにかく潰さない」という方針になるわけです。
緒方:
その象徴が、いわゆるゼロゼロ融資ですね。
真部:
そうです。リスケの継続だけではなく、とにかく資金を供給しました。政府系金融機関などは「要請があればとりあえず資金を出す」という状態でした。
本来であれば、リスケを続けていても資金が回らなくなり、市場から退場する企業もあったはずです。しかしコロナ政策によって、それらの企業も含めて延命されました。
いわゆる“ゾンビ企業”です。本来は市場から退出していたはずの企業が、大量に生き残ってしまった。私はよく言うのですが、あの3年間は“借金という名の劇薬を打って延命させた期間”だったと思っています。
■ 迫るインフレ三重苦と手のひらを返す金融機関
緒方:
そして現在、その反動が出始めています。
真部:
2024年からゼロゼロ融資の返済が本格的に始まりました。それと同時に、日本経済の構造的な変化も重なっています。長く続いたデフレからインフレへの転換です。
材料費は上がる、賃金も上がる、光熱費も上がる。企業にとっては完全に三重苦ですよ。
さらに金融機関の姿勢も変わりました。コロナのときは「とにかく支える」というスタンスでしたが、今は180度違います。業績が回復していない企業に対しては「もうこれ以上は貸せませんよ」という姿勢になっています。
緒方:
この状況は中小企業にとって非常に厳しいものです。
真部:
私は、これは単なる不況ではないと思っています。構造的な問題です。大企業は円安で利益を伸ばしているところもあります。しかし、中小企業は違います。下請け企業や消費者相手の企業はコスト転嫁ができないケースが多いのです。
結果としてPL(損益計算書)もBS(貸借対照表)も傷んでしまいます。今は、黙っていると淘汰されていく、“ドスンと落ちる一歩手前”の非常に危うい状態だと思います。
■ 経済政策がもたらす中小企業への副作用
緒方:
現在の経済政策については、どのように見ていますか。
真部:
マクロで見れば、大企業優先の政策だと思います。円安を誘導して輸出企業の利益を増やし、そこから税収を増やそうという考え方です。
ただ、その副作用をまともに受けているのが中小企業なのです。
今のインフレは、ある意味では“インフレ税”のような側面があります。インフレになれば政府が抱えている膨大な借金の実質価値は下がりますからね。
政府にしてみれば負債問題の解消にもつながります。でも、自給自足できない国民や、価格転嫁ができない中小企業にとっては、単に負担が増えるだけです。ある意味で収奪に近い構造になっていると思います。
■ “作って終わり”の残酷な現実――出口なき補助金はただの延命装置
緒方:
中小企業支援策としての補助金についてはどうでしょうか。
真部:
これも構造的に問題があります。改善計画を作る“入り口”には数百万円という補助金が出ます。でも、その後の計画実行支援にはお金が出ません(伴走モニタリング支援には一部補助金あり)。
私はよく建設業に例えるのですが、建物を建てるだけ建てて『その後のメンテナンスは知りません』と言っているのと同じです。
つまり“作って終わり、出して終わり”なのです。
実際、公的機関などで改善計画を作っても、3年後に正常化できる企業は多くないと聞いておりますし、支援が打ち切りになるケースも状況によってあるようです。
出口のない資金投入は、結局ただの延命装置になってしまうんです。
■ 下請けが崩れれば大企業も沈む
緒方:
一方で、中小企業淘汰論もあります。生産性の低い順に零細企業、中小企業、中堅企業、大企業となる以上、企業は最終的に大企業へ収斂していくべきだという主張です。
真部:
生産性の低い中小企業は淘汰されていい、という議論も確かにあります。でも私はそうは思いません。
大企業の仕事というのは、その下にある中小企業の厚みがあってこそ成り立っているのです。
もし中小企業がボロボロになって仕事を引き受けられなくなったら、最終的には大企業だって共倒れになります。これは火を見るより明らかですよ。
■ 手遅れになる前に“外科手術”を
緒方:
企業再生の現場で感じる課題はありますか。
真部:
一番多いのは、相談に来るタイミングが遅すぎることです。
経営者が「もうダメだ」と思って相談に来る頃には、たいていステージ4。つまり廃業するか弁護士に相談するしかない状態になっていることが多いのです。
緒方:
倒産取材をしていても、早く手を打てば何とかなったのではないかと思うケースはよくあります。相談の適切なタイミングはいつでしょうか。
真部:
私がいつも言っている基準はシンプルです。特段の事情がない通常の状態で、営業利益が1期でも赤字になったら、その瞬間に相談してください。
もっと言えば、営業キャッシュフローが1期でもマイナスになったら即です。
2期、3期と放置してしまうと、よほど体力のある企業でない限り持ちません。でも、1期の赤字で来てくれれば、ほぼ助かるんです。
実は、金融機関が専門家を紹介してくるケースの方が、まだ再生の可能性が高いんです。これは我々が言う「ステージ3」で、まだ外科手術ができる段階だからです。
銀行の担当者は債権者の立場から「このままではまずい」と危機を察知しています。でも、経営者本人が「俺が一番わかっている」と意固地になって、その手を跳ね除けてしまう。銀行が回収部門に債権を移したら、もう手遅れなのです。
■ 会社を食い潰す悪徳コンサルの見抜き方
緒方:
企業再生の分野では、悪質な経営コンサルタントも存在します。信頼したばかりに食い潰され、倒産した会社をいくつも見てきました。
真部:
確かに質の悪い経営コンサルタントは存在しますね。見分けるポイントは3つあります。
まず、「絶対儲かる」「100%再生できる」と言う人間は疑った方がいいでしょう。再生の現場に“絶対”はありません。
二つ目は、耳の痛いことを言うかどうか。いいコンサルは、経営者が見たくない数字を突きつけます。
三つ目は、その看板で何年生き残っているか。金融機関や公的機関と連携しているか、そして長く続いているか。それが信頼の裏付けになります。
■ 最後の砦は「素直さ」――甘い言葉に逃げず、現実を直視する覚悟
緒方:
企業再生に当たって、もっとも重要なものは何でしょうか。
真部:
結局のところ、一番大事なのは経営者の“素直さ”だと思います。
自分のやり方に固執して現実を見ないと、どうしても甘い言葉に逃げたくなる。でも赤字が出ているということは、今のやり方が今の環境に合っていないという証拠なのです。
経営者がその現実を認め、外部の知恵を取り入れる。それが結果として従業員や家族を守ることにつながります。私はそう思っています。
■ まとめ
ゼロゼロ融資の返済開始とインフレの進行という二つの潮流が重なるなか、中小企業の経営環境は急速に厳しさを増している。真部氏の話から浮かび上がるのは、現在の状況が単なる景気循環ではなく、長年先送りされてきた問題が一気に表面化する「構造的な局面」に入っているという現実である。リーマンショック後のリスケ政策、そしてコロナ禍の大規模資金供給によって、多くの企業が延命されてきた。その反動が、いまゼロゼロ融資の返済とインフレという形で企業経営を直撃している。
とくに中小企業にとっては、コスト上昇を価格に転嫁できない構造が重くのしかかる。真部氏は「黙っていると淘汰されていく一歩手前」と表現したが、その言葉は決して誇張ではないだろう。一方で、同氏は中小企業の存在意義についても強調する。大企業の競争力は、その下支えとなる中小企業の厚みがあってこそ成立するという指摘は、日本経済の構造を考えるうえで示唆に富む。
企業再生の現場で最も多い問題として挙げられたのが「相談の遅れ」である。営業利益やキャッシュフローが悪化した段階で早期に外部の知恵を取り入れることができれば、再生の可能性は大きく広がるという。逆に言えば、経営者が現実を直視できるかどうかが、企業の命運を分けることになる。 コロナ禍という非常時が終わり、日本経済は次の段階へと移りつつある。市場による企業の選別は、避けられない流れとして再び動き始めている。そうした環境のなかで中小企業が生き残るためには、経営者自身が現状を冷静に見つめ、変化を受け入れる覚悟を持てるかどうかが問われていると言えるだろう。
